【ボクシングコラム】「ヒントは日常に転がっているんです」──ユーリ阿久井政悟が語った“流儀”<インタビュー編>(BBM Sports)

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出典元:BBM Sports

あの日、あのとき、あの瞬間、勝者は何を考え、何を仕掛けていたのか。7月21日、東京・後楽園ホールで行われた日本フライ級タイトルマッチで、2度目の防衛を果たしたユーリ阿久井政悟(26歳、試合時25歳=倉敷守安)。試合からおよそ3週間後、日常を取り戻した王者の言葉は、想像を遥かに超えるものだった──。掲載済みの<私的考察編>と併せて読むと、ボクシングの奥深さがわかるはず。さらに、敗れたものの最後まで立派に戦い続けた桑原拓(26歳=大橋)のその後も追記。戦い続ける者たちの姿は、いつ見ても眩しい。 

【写真】初回のダウンシーン。さらにはウィラポンとサラゴサら、かつての名王者たち

文_本間 暁 写真_菊田義久

 東京五輪も終わり、普段より4、5日早く校了となる『ボクシング・マガジン9月号』の編集作業もドタバタと終えた8月上旬。すっかり森のようになってしまった庭の木に巣くうセミたちより、ふた足も早く抜け殻になっていた。けたたましい鳴き声のシャワーが、まるで嘲笑うかのように耳をつんざく。鬱陶しくて、昼寝どころではない。

 耳元に置いてあったスマートフォンが、唐突に彼らの鳴き声を切り裂いた。

「今日の夕方、時間ありますけどどうですか?」

 1本のLINEが飛び込んできたのだった。

 待ちに待った連絡だったはずなのに、いざその段になると急に慌てふためいてしまった。もう忘れられてるかな、試合直後だったしな…と半ばあきらめ、試合からひと月経ったころに連絡してみようかな、くらいののんきな体勢だったから。同時に、彼が覚えていてくれたことがことのほか嬉しくて跳ね起きた。

 7月21日、東京・後楽園ホール。日本フライ級タイトルマッチ、チャンピオン、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)対挑戦者6位・桑原拓(大橋)。あの試合から3週間が経とうとしていた。

「明日は髭、剃りますよ」──。決戦前日のオンライン取材での彼の言葉を思い出し、こちらも相応の覚悟で臨まねばならないと思った。できるかぎり身綺麗にし、伸ばし放題だった髭も落とし、2、3発両手で頬っぺたを張った。

 やはり、ハナからスピード勝負はしないつもりだった。

「合わせたら、こっちがペースを持っていかれてしまいますからね」

 さも当然のように言うが、目の前で速く動き、しかも攻撃してくるものに対し、相応に反応してしまうのは人間の、いや生物の本能、性。それを無視することは、どんなに強い意志を持ち、頑なに拒否しようとしても、なかなかできることではない。だが、彼はその土俵には決して立たなかった。それは「スピードで負けていない」という確信があったからこそなせる技でもあった。

「桑原は、いろんな動きがめちゃめちゃ速いんですけど、それは見ている人たちの目に映る“見た目の速さ”なんです。体感速度、やってる本人同士のスピードでは負ける気はしませんでした。だから例えば一緒にパンチを出しても、こっちのほうが先に当たるな、みたいな。僕の方がリーチも長かったですし」

 それを象徴するシーンはいきなり飛び出した。初回、右のほぼ同時打ちがカウンターとなり、ダウンを奪った場面だ。

「あのダウン以降、彼はぴょんぴょんと動き回ってましたが、顔は常にこわばっていました。時々笑ったりもしてましたけど、ほんのわずか、表情は引きつってましたから。そういう意味ではプレッシャー、かかってたのかな、と思います」

 戦前、両者を取材した(『ボクシング・マガジン8月号』)が、その際、桑原はやはり阿久井を「大変なパンチの持ち主」と、ことのほか警戒していた。それをいきなりまざまざと見せつけられたのだ。
 初めてのノックダウン。しかも、ものの見事なカウンターで。立ち上がったこと自体、不思議なほどの強烈なもの。それに早々のビハインドだ。メンタルが崩壊したっておかしくない。だが、その後も超速のスピードで桑原は動き回った。これはやはり彼の資質の高さ、練習量、そしてこの試合に懸けるおそろしいまでの執念を感じさせられるもの。やはり彼もまた、並の男ではなかった。

 しかし、ここで得た大きなアドバンテージで、一気に勝負に転じない阿久井に、普段、他のボクサーには感じるもどかしさはなく、恐ろしさすら感じたのだった。

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