まだ見ぬワールドカップの舞台へ…槙野智章がニュージーランド戦で見せた“覚悟”と“責任”(GOAL)

眉間に刻まれた真新しい傷跡には、うっすらと血がにじんでいた。

ニュージーランド代表が53分に獲得した右CK。競り合いの際に相手のひじがまともに入った跡だと、左センターバックとして先発フル出場した槙野智章(浦和レッズ)が笑いながら説明してくれた。

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「チームのピンチで、一つのプレーで流れを変える、あるいはスタジアムの雰囲気を変えるのは僕の持ち味でもあるので」

激痛とともにピッチにうずくまったのも一瞬だけ。豊田スタジアムに響き渡る『マキノコール』に後押しされた20番は雄々しく立ち上がり、何事もなかったかのようにプレーを続行した。

■武者震いに近い思い

間断なく雨が降る6日に行われたキリンチャレンジカップ2017。6大会連続6度目のW杯出場を決めたハリルジャパンが“第3段階”と位置づけるロシア大会まで約8カ月。、本大会に向けた初たなスタートとなる一戦で、槙野は約1年ぶりに日本代表戦のピッチに立った。

もっとも、昨年10月のオーストラリア代表とのアジア最終予選は、左サイドバックでの先発出場だった。センターバックでのプレーとなると、2015年11月に行われたカンボジア代表との同2次予選にまでさかのぼる。

リーグ戦日程の関係で1日遅れで代表合宿に合流した槙野は、到着当日にヴァイッド・ハリルホジッチ監督からセンターバックでの先発を告げられた。「武者震いに近い思いを感じずにはいられなかった」と槙野が再び笑う。

「招集されても常にベンチに座ってきて、自分の中でも悔しさがありました。ピッチに立った選手が非常にいいプレーをしていたので、自分がチャンスをもらった時にはいいプレーではなく、とにかく結果を出してポジション争いに入っていかなきゃいけない。そういう思いを、今日だけで1年分くらい出しました」

オーストラリア、サウジアラビア両代表と対峙した前回シリーズは左サイドバックとしての招集だった。もちろん代表監督の判断を何よりも尊重する。それでも、どちらのポジションで勝負したいかと問われればセンターバックと答えてきた。

「一番自分の強みというか、今のシステムではまるのであれば真ん中で勝負したい」

現状、日本代表のセンターバックは吉田麻也(サウサンプトン)を軸に、6月シリーズから昌子源(鹿島アントラーズ)が“相棒”のファーストチョイスとなった。6月の2試合では植田直通(鹿島)と三浦弦太(ガンバ大阪)の若手を1試合ずつベンチ入りさせて真剣勝負を間近で感じさせている。

「序列ができかけている」と感じられた中で、今回は三浦が招集外。代わって槙野がセンターバック枠で選ばれ、合流初日に先発を言い渡された。ニュージーランド代表の最前線には、2014年3月の対戦で2ゴールを奪われた191センチ、91キロの巨漢クリス・ウッド(バーンリーFC)がいる。この起用を意気に感じないはずがない。

「プレミアリーグでの彼の映像を吉田選手から見せてもらいました。非常に面白い選手だし、そういう相手と90分間ガチャガチャやるのは嫌じゃない。名前があって、体格があって、結果を残している相手は、自分にとってむしろ大好物ですから」

■ワールドカップを夢で終わらせたくない

ニュージーランドのキックオフで始まった後半、実は槙野がホイッスルを聞いたのは左サイドバックの位置だった。長友佑都(インテル・ミラノ)と一時的にポジションを入れ替えていたのだ。ウッドが向かって左サイドのタッチライン際にポジションを取り、キックオフと同時にロングボールが飛んでくると瞬時に判断したからである。結果、最前線を狙ってきた相手のロングボールにしっかりと立ち向かった槙野は、猛然と突っ込んでくるウッドに自由を許さず、開始直後の攻撃を寸断した。

「基本的には僕と吉田選手で9番(ウッド)をマークしろ、とミーティングで監督からも言われていたので。ただ、気をつけていた選手に、気をつけていた形で失点したことは反省しなきゃいけない。試合後のロッカールームではDF陣で話し合いました」

後半終了間際に決まった、MF倉田秋(ガンバ大阪)の劇的な代表初ゴールで勝利したが、余韻に浸ったのは一瞬だけ。左サイドを崩されてクロスを上げられ、ウッドに高い打点からヘディングを見舞われた59分の同点弾を招いた要因を、“鉄は熱いうちに打て”とばかりに反省した。

すべては来年6月までに、チーム全体を“世界基準”に引き上げるための作業に他ならない。槙野によると、その第一歩となる今回の合宿で「監督の口から『23人』という言葉がよく出るようになった」という。言うまでもなく、23人とはロシアの舞台で戦う代表メンバーの人数だ。

「日本代表には素晴らしいスターはいません。チームがスターであり、その意味でチームが勝つために一人ひとりが何をしなければいけないのかを考えた上で、どのような行動を取り続けられるのかを問いただしてくるんです」

ニュージーランド戦における槙野は、最後まで集中力を研ぎ澄まし続けた。体を張ったシュートブロックの数々に象徴されるように、前面に押し出された闘争心を、自身の武器であるフィジカルの強さ、スピード、足元の技術の高さと融合させて勝利を追求した。

もう一つ、キックオフ前のチームのテンションを高める儀式も忘れない。選手入場は浦和と同じく最後尾。先頭を務めるゲームキャプテンの吉田から順に、雄叫びとともにハイタッチを交わして鼓舞しながら列につくルーティーンは代表チームでも変わらない。

そうしたコミュニケーション能力も高く評価されているからこそ、指揮官が就任した2015年3月以来、ほぼ一貫して招集されてきたのだろう。同年5月の日本代表候補合宿では約20項目からなる“NGプレー”が編集された映像が駆使され、個別ミーティングで一つひとつ説明された。

「監督から褒められたことはほとんどないんですけど、それでも呼んでくれて、怒ってくれるのは僕のことを見てくれているから。監督の厳しさが僕を成長させてくれていると思っているし、感謝の気持ちをプレーで返さなきゃいけない。『いろいろなポジションができます』というだけでは残っていけない。一つのポジションに対する強みを、監督がチョイスした時に発揮できるようにしないと」

岡田ジャパンでもザックジャパンでも、ワールドカップイヤーを迎えてから槙野と代表チームとの距離が遠くなった。まだ見ぬ本大会の舞台へ。5月で30歳になったからこそ、心中には期するものがある。

「ワールドカップの舞台は夢ですけど、夢で終わらせたくない。個人的には最後のチャンスだと思っているし、自分が今いる環境でしっかりと結果を残しながら、日本の青いユニフォームを着る、日の丸を背負うという覚悟と責任を持って日々を過ごしていきたい」

今回の奮闘がセンターバックの序列に再びクサビを打ち込んだといっても過言ではない、魂をほとばしらせた90分間。2017年10月6日は、槙野のサッカー人生におけるターニングポイントとなるかもしれない。

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